あまり目にしませんが、洗濯機の中には熱湯(熱水とも言うようですが)で洗濯できる洗濯機が存在します。
一般のご家庭で購入して使用というのは少し難しい気がしますが、「清潔な衣類のためにはお金に糸目を付けない」という方は使っておられるかもしれません。
この熱湯を使う洗濯機が布団のダニとダニアレルゲンに効果があるのかという実験をした論文がありましたので、紹介したいと思います。
引用元は「アレルギー」という雑誌の「Vol. 56 (2007) No. 8-9 (8・9) p. 1107」です。2007年と古い記事なので、その点にもご留意下さい。
なお、著者は白井秀治氏(ITEA東京環境アレルギー研究所)」と阪口雅弘氏(麻布大学獣 医学 部獣医学科微生物学 第一研究室)です。
実験の概要
まず、論文の目的は以下の通りです。
【目的】熱水洗濯によるアレルゲン除去およびダニ死滅効果を検討する
続いて、何を実験の対象としたのかです。
ダニアレルゲン(Derp 1,Derf 1)およびネコアレルゲン(Feld1)を含有する一般家庭から採集した塵を用いて洗濯用汚染布を作成した
ダニアレルゲンの部分が分かりにくいので、以下のみ「weblio ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)」から引用して簡単に補足します。
- 「Derp1」はDermatophagoides pteronyssinus I」の略語で、「ヤケヒョウヒダニ」のこと
- 「Derf1」は「Dermatophagoides farinae I」の略語で、「コナヒョウヒダニ」のこと
猫アレルギーの元になる「ネコアレルゲン」まで調査範囲にはいっているのは嬉しいのですが、「汚染用洗濯布」を作成したとあり、布団そのものを洗濯したわけではありません。この点は後述します。
さらに具体的な実験方法ですが、そのまま引用すると分かりにくいので以下に箇条書で分かりやすく読み替えてみたいと思います。
- 熱水洗濯機能付洗濯機(WD−S85/LGエレクトロニクス/2007年発売)を使用
- 「60度の熱水で洗濯」と「冷水で洗濯」の2パターンで実験
実験に用いられた洗濯機は2007年発売の機種のようで、今は廃番だと思います。
この洗濯機を使って、熱湯と冷水で洗濯を行い、洗濯前の状態と比較してどちらが効果があったのかを見比べます。
実験結果
以下が実験結果ですが、こちらもそのままでは分かりにくいので読み替えて記載します。
数値は全て洗濯前と比較して、という値ですのでその点ご留意下さい。
アレルゲン濃度
まずはアレルゲン濃度が洗濯前と洗濯後で、熱水と冷水それぞれでどうかわったのかです。
ヤケヒョウヒダニ | コナヒョウヒダニ | ネコアレルゲン | |
---|---|---|---|
熱水 | 4.3% | 6.7% | 0.1% |
冷水 | 10.7% | 9.9% | 11.7% |
アレルゲン濃度は洗濯すれば冷水でも9割ぐらいとれてしまいますが、熱湯なら更にもう少しアレルゲンを落とせるようですね。特に猫アレルゲンには効く模様です。
論文の趣旨とは違いますが、布団の洗濯効果は期待できますので、布団丸洗いの必要性が補強されると思います。
生きたダニの生存率
基本的に洗濯機でダニはあまり死なないというデータをよく見かけますが、それはあくまで冷水が基本のはずです。
では60度の熱水で洗濯すると、ダニはどうなるのでしょうか?
熱水 | 0% |
---|---|
冷水 | 95.6% |
想像以上ですね...。まさか熱水でダニ生存率0%とは思いませんでした。
対して、やはり冷水洗濯の場合、ダニはほとんど生残っていた模様です。
少し気になるのは、熱湯自体がダニを殺したのかどうかです。
生存率は文字通り「生きたダニがどれだけ残ったか」であり、そこに数えられなかったダニが死んだのか、洗い流されたのかが不明なためです。
もちろん、熱水で死なずとも布団から引きはがせるのであれば良いので、どちらであっても気にする必要はあまりありません。
ですが「ダニを殺せる」のか「ダニを引き剥がせる」のかはやはり気になるところです。
また、この結果に関してより重大な問題点がありますので、次項で詳しく記載します。
この論文の注意点
既に少し記載していますが、この論文には注意するべき以下の点があります。
- 布団自体を洗濯したわけではない
熱水洗濯機が有効なのはわかりましたが、そこに布団が入ればの話です。
入ったとしても、洗濯機の性能を活かせる程度に回転させることができなければ、効果も落ちるでしょう。
つまり、少なくとも家庭用サイズの熱水洗濯機で布団を丸洗いした場合、論文と同様の効果は期待できない、と懸念されます。
「熱水洗濯機はダニ対策に効く!」は正しそうですが、それが実行できるかは別の話であることをくれぐれもご注意ください。
もちろん、毛布や布団カバーなどの体積がない洗い物なら期待してもよいと思いますが。