防ダニ布団カバーと喘息を持つ児童に関する論文がありましたのでご紹介します。
後述しますが、論文の内容自体は読んでも目新しいものはないと思います。
しかし、だからこそ基本を押さえるべきという実例の一つだと言えますので、確認をかねてご覧いただければと思います。
論文名は「防ダニ布団カバー使用によるダニ感作喘息児の臨床経過」で「日本小児アレルギー学会誌 Vol. 4 (1990) No. 1 P 15-21」に掲載されています。
1990年とやや古めの論文ですから、今現在の防ダニカバーと同じではありませんし、住環境も児童の状態も当時とは変わっている可能性が高く、それらを踏まえ詳細や具体的な部分は、あくまで参考程度にご覧下さい。
論文の前提
先にいくつか前提を引用します。改行は筆者によります。
調査対象
国療千石荘病院,大阪市立北市民病院,大阪市立桃山市民病院,大阪市立城北市民病院,大阪市立少年保養所,PL病院および大阪市立大学小児科に入院中ないし外来通院中のダニに対する抗体価がRAST score 3以上である3歳から15歳までの気管支喘息児,男児29例,女児18例を対象とした.
地域は大阪で、年齢は3-15歳とのことです。
たまたまなのか、男の子の方が女の子よりも多いようです。
なお、RAST scoreに関しては論文ではなく、独立行政法人 環境再生保全機構の「RAST」のページから引用します。
個々のアレルゲンに対するIgE抗体の有無と量を知る検査法。
反応の強さを0~6段階に分けてスコア化し、例えばダニ6、卵3などと表す。スコア2以上でIgE抗体陽性と判断する。
RASTスコアが高いとそのアレルゲンがアレルギー症状の原因になっている確率が高くなるが、必ずしも症状の原因とはいえず、逆にスコアが低くてもそのアレルゲンで激烈な症状を呈することもある
今回はダニに対してのRAST score3以上ということになりますので、6段階中の真ん中です。
しかし、引用部分にあるように、RAST scoreとアレルギー症状の関係性が必ずしも連動しているわけではなく、RAST scoreだけで判断はできません。
仮にお子さんがRAST score2以上であったとしても、慌てず騒がず、医師の診断を待ったり、しっかりと話を聞きましょう。
他の誰かではなく目の前のお子さんの症状を気にせねばならないのであって、ネットで「RAST score」を調べても大した意味はありません。
調査方法
1988・4-11に渡り観察期問2週間および防ダニカバーを12週間使用し患者は日記帳に毎日の症状を記録した.
患者の診察および日記帳のチェックは少なくとも2週毎に行い,臨床検査は,試験開始前,試験開始6週間後および終了時に血液一般検査,生化学検査,尿検査を行った.
月に一度布団および床の塵埃を集めてダニ数を計測した.呼吸機能検査も同様にできるかぎり実施することにした.
防ダニカパーは敷布団,掛布団および枕に使用し,2週間毎に洗濯することにした.
比較のために防ダニカバーを使用しない群を家庭で使用の場合14例,病院で使用の場合8例を対照群とした。
調査自体は1988年とのことで、1990年よりも更に遡り、現在との違いは大きいと思われます。
こういった調査では問診による聞き取り調査が主体になる場合もありますが、今回の調査は日記に記録する形に加え、月一度の現地サンプル収集であり、信頼性は多少高まると思われます。
「多少」と付けたのは、日記帳に記載するのが患者自身であるため、結局のところ主観的な内容となってしまい客観性を欠くためです。
特に相手が子供となると、客観性に加えて語意の問題もあり、問診主体より状況把握が難しいと言えます。
が、問診で知ることができない時間帯の事柄が記録されることになり、メリットも大きいのだと思います。
調査結果の概要
論文には細かく結果が書かれていますが、概要と言いますか簡単に結果をまとめた部分だけ引用します。
ダニ感作の喘息児の発作点数が防ダニシーツ使用後に低下が認められ、また呼吸機能についても45.2%に改善を認めたのは同様の効果によるものと考えられた.
生活環境からチリダニを除去する試みについてはこれまで多数の報告10-11)が行われている.
しかし,一時的な効果は認められるものの,長期に渡り効果が得られた報告はない.
著者らの試みた防ダニシーツにより1カ月後にもダニ数が有意に減少していた成績はこれまで報告がない.
まずは効果があった点についてです。
先行研究で以下の事柄が示されており、それと同様の効果があったと書かれています。
寝室と寝具の徹底した整備により喘息発作が減少し,呼吸機能検査の成績も改善する
少々気になるのは、防ダニ布団カバーの効果がやや高すぎるのではという点です。
防ダニカバーとして有名な ダニゼロックス や ミクロガード や ディーガード などです。
しかし、ダニが繁殖しやすく、かつ、口や鼻など呼吸する部分に非常に近い場所に長時間存在する(睡眠中ずっとですから)特徴のある布団に対しての実験であったことを考えると、布団カバーが顕著な結果を生んだのも必然かもしれません。
顔の近くにダニアレルゲン満載の物などそう多くはありませんから。
が、論文はここでは終わらず、むしろ次が重要です。
季節と室内環境が重要
しかし,使用4カ月後の7月に塵埃中のダニ数が増加するとともに発作点数も上昇したことから,ダニの繁殖期には室内の掃除を徹底して行うとともに湿度を低下させることが必要であるかと考えられた.
わが国では6月頃より夏季にダニ数が増加することが知られている.
この時期には除湿器などにより積極的な防湿によりダニの繁殖を助長する環境を除去することが必要かと考えられた.
論文では防ダニ布団カバーを使っても、梅雨を含めた夏の時期に喘息の発作回数が上昇したと書かれています。
つまり夏になるまでは防ダニ布団カバーでどうにかなっても、梅雨に入ると防ダニ布団カバーのみでは効果が期待できない、となります。
結局のところ、毎日の湿度管理や清掃が必要だという結果になりそうです。
決して防ダニ布団カバーの効果が全くなかったというわけではないのですが、非常に大きな効果があったという訳でもなく、ダニ対策のための一つの武器であるということが示唆されたに過ぎません。
過剰な期待も落胆も持つべきではないので、その点はしっかりと認識しておいたほうが良いでしょう。
防ダニ布団カバーと喘息を持つ児童のまとめ
まとめとしては以下のようになります。
- 防ダニ布団カバーは夏以外では効果がある
- 夏場には室内自体のダニが増えて防ダニ布団カバーの効果が小さくなる
- 夏に限らず室内環境は重要である
手入れや扱いが難しいため筆者は防ダニ布団カバーを持っていませんので、特にお勧めできるものはありません。
枕カバーも忘れない方が良いでしょう。
布団よりも枕の方が口や鼻に近いですからね。